お元気ですか?
春らしい日が続き、各地で桜の開花宣言が聞かれるようになってきました。卒業式や入学式、入社式や転勤と、人の動きが多い時期でもありますが、新型コロナの第4波が来ても深刻な感染拡大にならないように祈りたいと思います。ところで最近の車業界では、EV車の本格的なウェーブの到来や自動運転レベル3搭載の乗用車の登場など技術的な進歩が加速度的に起こり話題に事欠かないですが、ドローンもあらゆる産業分野で活用する動きが活発になってきており、機体の技術革新も進んできております。
例えば、ヒトの入ることが難しい狭所や高所のインフラ点検や、ドローン測量技術を使って、土砂崩れ現場の土砂の流出量や地形変化を手間暇かけずに捉えたりすることができます。中国では、ドローンタクシーの実証実験もスタートしていますし、時事ネタでは、新型コロナ対策で、スタジアムの観客席に消毒液(次亜塩素)をドローンで散布するという試みも行われています。
近い将来、化石燃料を出来るだけ使わない、地球にやさしくより安全で便利な世の中ができてくるのでしょうね。今回は、機体からの測位情報を数センチ単位まで精度をあげることのできるRTK(GPS)の仕組みについて取り上げたいと思います。
RTK(GPS)とは
ドローンの位置情報は、GPS(GNSS)電波を拾っているのがほとんどですが、その精度は数メートルから数十メートル単位の誤差があります。最近のカーナビは、地図情報や車速センサーといったデータがGPS情報をアシストして精度を上げ表示させているので、電波の届かないトンネルの中であろうが、高い精度で道路をトレースしていきますが、GPSの情報自体は他のものと変わりありません。
素のGPS 情報にプラスして捕捉情報を拾えば精度が高くなるという発想をもとに、ドローン(移動局)が拾うGPSデータを、固定局(正確な位置情報を持った地上局)が持っている補正データをタイムリーに移動局に伝送し、より正確な位置を割り出す仕組みがRTK(real time kinematic)です。
固定局は自身の正確な位置情報とGPSの位置情報との差分データを持っています。例えば北緯でー2 東経でー1 高度で1のGPSデータの誤差があったとします。固定局はこのデータを移動局(ドローン)にリアルタイムに伝送し、ドローン(移動局)は、自身が拾ったGPS情報を、固定局から送られてきた差分データ北緯ー2東経ー1高度1の修正を行いより精度の高い位置情報を導き出します。さらにGPS衛星の電波波長、位相などから衛星までの距離を正確に算出、補正することで、誤差数センチ単位の高精度を実現しています。
固定局には、一般にマーカーと呼ばれている正確な位置情報とGPSの位置情報の誤差をWIFIなどを使って移動局に伝えるモジュールが使用されますが、あらかじめ測位する周辺に準備する必要があります。最近ではネットワークRTKというものもあり、日本国中に1,300カ所ある電子基準点の測位情報を携帯電波を利用して拾うシステムがあり、ネットワーク使用料はかかりますが、マーカーを準備する必要がないのがメリットになります。このほか同じような仕組みで、DGPSがありますが、海上保安庁の設置したDGPS基地局からのビーコンとGPS衛星の発する衛星位置情報(SBAS)を使用して精度を上げています。同じくマーカーは必要ありません。
RTKの利用価値
高精度な位置情報を得て、どこに活かしていくのかというと、まずいちばんに思いつくのが測量ですね。測量でドローンを活用しようと思うと、GPSの測位データだけでは、誤差が十数メートルあるので使い物になりませんが、RTKの仕組みを活用すると、実用性が見えてきます。また一日の工事がどの程度進んでいるかもタイムリーにドローンで確認することが出来ますので行程管理にも活用できる訳です。また、ダンプやユンボなどの建設機械を無人化して人手を掛けずに土木工事をすすめていく取り組みも進められています。国土交通省が進めているI-Constructionでは、公共事業計画の3D化により、見積段階から精度を上げていく取り組みがあります。空からの測位データをもとに3D化して、残土容量を算出してダンプ何台分かを見積もったり、工事の出来型管理を行ったりといったところで活用していく取り組みがすでに行われています。
そのほか農業(スマート農業)では、RTKを搭載した農薬散布用ドローンやマルチスペクトルカメラ搭載のドローンで、農作物の生育状況、害虫や病気の発生状況などを管理しながら農薬をピンポイントで散布することもできるようになります。例えば田んぼの稲の生育状況を定期的に空から光の波長の違いを検知できるマルチスペクトルカメラで観測すると病気で弱った稲の色を識別できるため、弱った部分だけをピンポイントで農薬散布したり、ほかにも作物が光合成をやめるときの色変化を捉えて収穫のベストタイミングを計ったりすることができます。日本の農業就業人口はどんどん減少傾向にあり、高齢化が進んで耕作放棄地も増えています。地方の村々が過疎化すると生活圏を害獣が侵食して収穫前の作物を荒らしてしまう被害も相次いで起こってきています。また、地球温暖化によって、これまで産地とされていた地域が生産不適合地域になっていったり、巨大な台風や豪雨の襲来頻度が高くなり生産が不安定になってきている傾向があります。このままですとタダでさえ食料需給率が低い状況なのにさらに深刻な状況になるとされています。この差し迫った状況を打破しようとRTK搭載の農業用無人トラクターの開発や、これまでベテランの勘に頼っていた収穫期や病気害虫の対処もデジタルデータとして可視化することで、ITの技術をつかい人手を掛けずより効率的に課題解決を図る取り組みが始まっています。
自動車業界では、自動運転が話題になっていますが、GPSの測位情報をはじめ、ネットワークRTKシステム、ミリ波レーダー、ビジョンセンサー、ビジュアルスラム技術などあらゆるセンシングシステムを駆使して、衝突回避機能をもった安全性の高い自動運転を実現していこうとしています。少し前にアメリカで自動運転試験中に人身事故が発生したというニュースがありましたが、現在では、5段階レベルのレベル3の実用化まで進んでいます。近い将来運転手のいないバスやトラックが普通に走っている世の中が実現することでしょう。
将来有望なRTKシステムですが、いまのところ高価なのが残念なところで、安いドローンでも80万ぐらいします。今後RTKやDGPSは、ドローンに限らず、あらゆる分野で必要不可欠なシステムとして活用されていくとすれば量産化によって価格も廉価になり需要はどんどん広がっていくと考えられます。