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ドローンに使われているバッテリーのはなし

みなさんお元気ですか?

3月9日に航空法等の一部を改正する案が閣議決定しました。その中のドローンに関する改定では、市街地を目視外飛行できるようにする(レベル4)に向けて操縦者の技能を証明する制度を創設することと、認定された技能者が飛行させる場合の許可・承認の手続きを合理化すること。無人航空機を操縦する者すべてに対し、事故の報告を義務付けることの大きく3つが決定しました。これまで趣味の延長というイメージを払拭できなかったドローン業界も、国の認めるライセンス制度よって、趣味で飛ばす方と仕事で飛ばす方がより明確に区別されることになり、ドローンパイロットという職業が市民権を得ていくのではないかと期待しております。さて今回は、ドローンに搭載されているバッテリーについて掘り下げてみたいと思います。

そもそもバッテリーってどういう仕掛け?

普段何気なく繰り返し充電して使っているスマホやカメラ、電動工具などに仕込まれているバッテリーですが、なんで電気を貯めたり放出したりできるかご存じですか?バッテリーには正極と負極の2つの極の間に電解質という金属イオンは通すが外核にある電子を通さない壁があって、両極に電位差の大きい金属をそれぞれ使用します。電位の低い金属を正極としてそこにプラスの電流をながすと金属の外核電子が引きつけられて電位の高い金属で形成された負極へと流れていきます。これが充電の流れです。すべての金属イオンが負極に移動した時点で電流を流すのを止めて回路をつなぐと、電位の高いところから低いところへ電子が流れ、充電の時と逆の方向に電子と金属イオンが移動します。この状態が放電になります。イメージでいうと電気の流れを利用して、地面(正極)からすべり台の上(負極)まで電子を持ち上げてやると電子は勝手にすべり台を降りてくる。降りてくる時に電気の流れ(電流)が生まれるという訳です。これを何回も繰り返しできる電池を2次電池、充電ができない電池を1次電池と呼んでいます。

 

 

リチウムイオンバッテリーって何だ?

2次電池の性能として求められるのは、重量が比較的軽く容積が小さく持ち運びがしやすくて、電力容量が出来るだけ大きく長時間パワーが持続し、値段が手頃ということです。そこでパワーのある電池を作るには、電位差のできるだけ大きな金属極をマッチングをすればよいということになります。イメージでいうと地面とすべり台の頂上部との落差があればあるほどすべった時のスピードが速くなるという訳です。そこで目を付けたのが、元素記号票の左上のほうにある電位の低いリチウム(Li)なのです。しかし負極にできるだけ電位の高い金属を持ってくればいいと考えて安直に金の負極を作ったとすると、重くて値段のものすごく高額な電池になってしまい実用的ではないですね。また、リチウム単体では非常に不安定な物質なので、化合物として存在していなければ安定しない特性があります。そこで研究者たちが試行錯誤を重ねて、正極に安定性の高いコバルト酸リチウム、負極にリチウムイオンを取り込んで安定化させるグラファイトというカーボンを利用し、極間の電解質をリチウムイオンが行き来できるようにした比較的安定して作動する現在のリチウムイオンバッテリーを開発したという訳です。2018年にリチウムイオンバッテリーの開発でノーベル賞を受賞された吉野 彰氏の報道は記憶に新しいところです。

リチウムイオンバッテリーの取り扱いについて

リチウムは、非常に不安定で水には激しく反応し、空気にふれるとすぐに酸化するデリケートな金属なので取り扱いにはいくつか注意が必要です。バッテリーの劣化にはサイクル劣化と保存劣化があるのですが、サイクル劣化とは、何回も充放電を繰り返し行うと極の素材が劣化して本来の性能が発揮されなくなり徐々に電池としての機能を果たさなくなることです。100%充電完了と表示されているのに使いだしたらすぐに電池切れになってしまう経験をされていれば、その症状のことです。ちなみにリチウムイオンバッテリーの寿命は1000~2000回とされています。

次に保存劣化があります。原因の1つは過充電と過放電です。満充電や残量ゼロの状態で長期間保存すると劣化が早まり使い物にならなくことがあります。バッテリー残量60%程度の状態で保管するのが適しています。このほか長期間放置した場合にバッテリー内の電解質(有機塩)と金属が化学反応を起こし水素ガスを発生させてハウジングを膨張させることがあります。このような症状のバッテリーに充電器をつなぐのは危険ですので使用は出来ません。そのほか充電時に高い電圧にするとバッテリーが暴走して発火する危険があります。

2つ目は温度です。充電時は0~40℃、放電時は-20℃~60度の間で使用するのが適正とされています。バッテリーを充電したり放電したりすると発熱するので、多くののモジュールを積載するEV車などでは高熱になるので冷却システムを導入する場合があります。ドローンのバッテリーでは、寒い時期に飛行させるときは、あらかじめ適正温度の場所で充電して、人肌程度に保温した状態で使用しないと、すぐに残量が無くなってしまい、帰還できずに墜落につながることがありますので注意が必要です。

3つ目にセルバランスがあります。リチウムイオンバッテリーは、セルという単位の単三電池様のバッテリーが複数入ったモジュールになっていますが、セルの充電量に個体差があった場合、早く満充電になるセルは他のセルが満充電になるまで電圧がかかった状態が続くため過充電状態になり発熱します。そこでそれぞれのセルのコントロールを行う必要があります。このようにセルバランスや電圧などの管理項目をICを使ってコントロールするシステムをBMSと言っています。

DJIのドローン用インテリジェントバッテリーは、BMSが装備されています。ただし、長期間バッテリーを保存する場合は、常に自然放電が起こっているので定期的に電圧を見ながら残量0にならないように充電する必要があります。バッテリーの買替え時の注意として、同じ形のバッテリーで激安品がありますが、粗悪なものが多く、電解質に製造過程で金属粉がまぎれていたり、ハウジングの建付けが悪く液漏れを起こしたりすることがありますのでお勧めいたしません。安いものはそれなりに安い理由がありますので出来れば少々高くても正規品が安全です。また廃棄のバッテリーは一般ゴミとして絶対に捨てないでください。パッカー車の中で火災を起こす原因になっており社会問題になっています。家電量販店や行政に廃棄方法を確認してから処分しましょう。

リチウムイオンバッテリーの将来性

近年飛躍的に用途を増やしてきたリチウムイオンバッテリーですが、もっとパワーがあって長時間の使用に耐えるバッテリーにならないかという社会的課題に向かって研究開発は進んできているようです。近年の自動車業界では、内燃機関の代わりにEVを導入する動きが急速に高まり、ドローン業界では、より航続距離の長いドローンを開発し物流に使用しようといった動きが盛んです。環境問題の中には、リチウムイオンバッテリーに含まれるコバルトの採掘で児童労働をさせているという問題があり、ノンコバルトのバッテリー開発も進められています。また昨今電解質を固体化した全個体電池の開発も行われていたり、グラファイトの代わりにシリコンを使ったバッテリーでは実験段階で既存の5倍の容量を得られたとの報告もあるようです。いずれにしても、より安全でコンパクト、容量の大きなバッテリーを目指して開発競争がどんどん加速していくことでしょう。

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